ボーイングとエアバスの自動操縦解除の考え方の違い
決定的な違いとは?
過去の事故から学ぶ航空機の「思想」
ボーイング (操縦桿):
ボーイングの操縦桿は、
両方のパイロットの操縦桿が物理的に連動しています。
片方のパイロットが操縦桿を動かせば、もう一方の操縦桿も動きます。
自動操縦中にパイロットが操縦桿を操作すると
原則として自動操縦が解除される設計になっています。
これにより、パイロットは直感的に航空機の制御を奪い返すことができます。
これは、パイロットが常に最終的な決定権を持つという
「パイロット・イン・コマンド」の思想に基づいています。
エアバス (サイドスティック):
エアバスの航空機は、操縦桿の代わりにサイドスティックを採用しています。
これは、F-16戦闘機のようなフライバイワイヤ(電線操縦)システムに
由来します。
サイドスティックは物理的に連動していません。
つまり、一方のパイロットがサイドスティックを操作しても、
もう一方のパイロットのサイドスティックは動きません。
自動操縦中にパイロットがサイドスティックを操作しても、
すぐに自動操縦が解除されるわけではありません。
多くの場合、パイロットの操作が自動操縦のコマンドを上回る
(オーバーライドする)形になりますが、
システムによっては一定以上の操作が必要であったり、
自動操縦モードが完全に解除されずに残る場合もあります。
また、どちらのパイロットが操縦しているのかが
視覚的に分かりにくいという課題も指摘されてきました。
エアバス機でこの違いが事故の一因になったとされる事例
最もよく知られているのが、2009年に発生した
エールフランス447便墜落事故(リオデジャネイロ発パリ行き)です。
事故の概要: 大西洋上空で乱気流に遭遇し、
センサー(ピトー管)の凍結によって
速度情報が一時的に失われたことが発端となりました。
問題点:
速度情報の喪失後、自動操縦が解除されましたが、
機長が機首を上げ続ける操作を行いました。
これは失速を招く操作でした。
コックピットにはもう一人副操縦士もいましたが、
サイドスティックが連動していないため、機長がどのような操作をしているのか、すぐに正確に把握することができませんでした。
機長の操作は一貫して機首を上げる方向でしたが、
彼自身が失速していることに気づいていなかった、
あるいは状況を正確に理解できていなかった可能性があります。
最終的に機体は失速状態から回復することなく海面に墜落し、
乗員乗客228名全員が死亡しました。
事故調査委員会による指摘: 事故調査では、サイドスティックの非連動性や、
操縦の引き継ぎが明確でなかった点、
そしてパイロットが失速状態を認識できなかったことなどが
複合的な要因として挙げられました。
この事故を教訓に、
エアバスはサイドスティックの操作をより明確に表示する機能の導入や、
パイロット訓練の見直しなど、改善策を講じています。
人間工学とシステムの設計思想
ボーイングの設計思想は、緊急時や異常事態において、
パイロットが直感的に操縦を引き継ぎ、直接機体を制御できることを重視しています。
これは、パイロットを「最終的な意思決定者」と位置づける、
より伝統的な航空機の操縦哲学に基づいています。
一方、エアバスの設計思想は、
高度な自動化とコンピュータによる
飛行保護機能(フライト・エンベロープ・プロテクション)を重視しています。
これは、パイロットの誤操作を防ぎ、
機体を常に安全な飛行領域内に保つことを目指していますが、
その一方で、パイロットがシステムの挙動を完全に理解できていない場合に、
意図しない結果を招く可能性も指摘されてきました。
どちらの設計思想にもメリット・デメリットがあり、航空安全は常に進化し続けています。
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